Fruehling

『春のおもい』D686
『春に』D882
『春の夢』冬の旅より

 ヨーロッパの冬は厚い雲に終始覆われているので、春の訪れを知らせるクロッカスを待ちわびる想いは我々よりも強く、固く閉ざしていた人々の心は、春の気配を感じ敏感に動きだします。

 『春のおもい』では、春風が運んでくる新鮮で新しいものが、世を美しく変えてゆき、胸の中の悩みもその移り変わりとともに忘れ去られるように、と歌われます。
 シュルツェによる『春に』では、いつもと同じように訪れる春なのに、人の心は移ろいやすい、と時の経過の中で移ろうものと、変わらないものが並べられています。
 それにしても、憧れに満ちた穏やかで柔らかい旋律をもつ、これら春の歌になんと詩情をかきたてられることでしょう。確かに心のあらゆる想いがとろけだすようです。

 真冬に見る「春の夢」。さまよい歩き、ふらふらになりながら身を横たえる。体のふしぶしが痛み傷がずきずきする。だが次第に眠りに落ちてゆくと「春の夢」を見る。美しい乙女と愛し愛される夢を見る。ところが夜明けを告げる雄鶏に起こされてしまう。今見た夢を回想する。もうろうとした中で思う「ぼくはいつ恋人を胸に抱けるのか。」

 "Was sagst du?" もう二度と抱くことはできないのだ!
 主音がうつろに繰り返され、最後にシューベルトはそっと短和音を鳴り響かせます。明るく希望を感じさせる曲頭なだけに、この最後はこたえます。「冬の旅」の中でも最も印象的なシーンのひとつです。